「その先へ」導く人財戦略―アイペット損保が描く組織と個人の成長
企業インタビューシリーズ
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その他
現代社会において多くの企業が変革の波に直面する中、持続的な成長を実現するためには、組織の「人財力」強化が不可欠です。特に、変化の激しい市場環境において、いかに人財を育成し、組織全体のパフォーマンスを最大化していくかは、経営層にとって喫緊の課題となっています。
このような背景において、ペット保険業界をリードし、多くの飼い主とその大切な家族であるペットに安心と幸せを提供している第一生命グループ、アイペット損害保険株式会社は、どのように人財育成に取り組み、成果を上げているのでしょうか。
当社グループ コーポレートコーチ株式会社 代表取締役の森川がその秘訣に迫ります。
執筆者

――― Interviewee ―――
第一生命グループ、アイペット損害保険株式会社
代表取締役 執行役員社長
安田 敦子氏
製造業のリーガル部門に10年間在籍し、うち2年間はアメリカに留学。その後、コンサルティングファームに8年間勤務。フリーのコンサルタントとして活動した後、アイペット損害保険株式会社に入社。2021年から社長を務め、2025年6月で丸4期を迎える。自宅では家族と猫と共に暮らしている。

――― Interviewer ―――
ビジネスコーチグループ コーポレートコーチ株式会社
代表取締役社長
森川 駿
大学卒業後、大手旅行会社に入社し、団体旅行の営業担当として、社員旅行や修学旅行の旅行企画から手配、添乗業務を経験。
2015年にビジネスコーチ株式会社に入社後、人事制度構築・ビジネスコーチングのコンサルティングセールスおよび、メンバーの採用・育成・マネジメントなどに従事。2025年1月より現職。
成長市場とアイペットのビジョン
森川:第一生命グループ、アイペット損害保険株式会社の代表取締役 執行役員社長である安田 敦子氏に、人財育成に対する思いやビジョン、そして今後の展望について深く掘り下げて伺います。
また、人財育成の一環として取り組んでいるビジネスコーチング、特にエグゼクティブコーチングについても、その導入の背景や効果についてお話を伺い、女性リーダーとして会社を経営する安田氏がどのようにそのマインドを社員に浸透させているのかヒントを探ります。
アイペット損害保険株式会社とは ペットを対象とした損害保険を提供。近年、ペットの長寿化や動物医療の進歩、そしてインフレの影響により診療費が高騰する傾向にある中で、同社では飼い主が安心してペットを病院に通わせ、必要な治療を躊躇なく選択できるよう、診療費を補償する保険を提供している。2024年に設立20周年を迎えた同社では、昨年度末に保有契約件数が97万件を超え、今や100万件に迫る勢いで成長を続けている。 ※ペットは人間と異なり公的な保険制度がなく、動物病院での診療費は全額飼い主の自己負担 |
森川:社長として大切に育ててきたからこそ感じる、アイペット社の魅力とは何でしょうか。
安田氏:まず、私たちの存在意義が非常に明確であるということだと思います。私たちはペット保険によってペットの健康を支えることはもちろんですが、飼い主さまの終生飼養を支えるという意味もあると考えています。特に私たちの役職員はペットが好きな人も多いですし、ペットを飼育していたことがある人も多いので、この考え方には非常に共感してくれています。
また、私たちは「うちの子に一生の愛を」というブランドメッセージを掲げています。このメッセージのように、飼い主さまのペットへの一生の愛を支えるために仕事をしている、という仕事の意義が明確であることが、私たちのビジネスの良いところであり、一番の魅力だと思っています。
加えて、ペット保険業界は成長性が高い市場であり、自らが成長を実感できるところではないかと思っています。2019年の保有契約件数は50万件強という状況でしたが、約5年後の2024年度には、保有契約件数が97万件と約2倍に成長することができました。
ペット保険業界は競争が激しい市場でもあるので、そういった中でお客さまにしっかりと向き合い、ペットと飼い主さまのお役に立てるよう、これからも努めていきます。
森川:アイペット社はお客さまから厚い信頼を寄せられているのですね。
そのアイペット社が目指す、理想の姿を教えていただけますか。
安田氏:私たちは「ペットと人とが共に健やかに暮らせる社会をつくる」ことを経営理念に掲げています。ペット保険の会社ですので、やはりペットの健康に貢献していきたいという思いはもちろんあります。しかしそれだけではなく、飼い主の皆さま方もペットと共に暮らすことで心身ともに健やかに、そして幸せに暮らしていただきたいですし、ペットの飼育有無にかかわらず、うまく共存できるような社会づくりに貢献したいと思っています。
また私たちのMissionは、「ペットの保険が当たり前の世の中にする」こと。今、日本でペット保険の普及率は20%強と推計しており、ご家庭で飼育されているペットがペット保険に加入していない割合は8割強存在すると考えています。そういったペットが急な病気や怪我をした際、飼い主さまの経済的事情で動物病院の受診や先生からの最適な治療の提案に対して躊躇するといった状況が起こるのは、飼い主さまにとって非常に辛いことだと思います 。だからこそ、ペットをお迎えになる際には保険で備えることが当たり前の選択肢になるよう、ペット保険の普及に取り組んでいきたいと思っています。
森川:ではその理想に対して、現在のアイペット社は理想の姿に近づいていると思いますか。
安田氏:私たちの理想の姿に向けては、まだまだ道のりは長いと思っていますが、それでも一歩一歩着実に近づいてきていると感じています。前述の通り、保有契約件数が伸びていることもその一つの目安であると言えるでしょう。
ただ、ペットと飼い主さまのために私たちができることは、きっと、もっと、あると思っています。私たちのVision「その先の、ペットの保険会社へ」には、5年後も10年後も、そしていつかペットを見送らなくてはいけない時が来たとしても、「アイペットでよかった」と飼い主さまに思っていただけるような保険会社でありたいという意味が込められています。今のお客さまのニーズにお応えすることはもちろんですが、お客さまの将来のニーズにもお応えできるように、私たちは変革と挑戦を続けていかなければいけないと思っています。
人財育成の課題と社長の思い
森川:理想の姿を目指すにあたり、これから取り組んでいきたいことや課題を教えてください。
安田氏:私たちの持続的な成長と、「その先の、ペットの保険会社へ」、「ペットの保険が当たり前の世の中にする」という理想の実現には、やはり「人」の力が非常に重要であり、人財育成に優先度高く取り組んでいきたいと考えています。
先ほどもお話ししましたが、当社の役職員にはペットが好きな人が多くいます。そのため近年のエンゲージメントサーベイ等のスコアでも、経営理念の浸透度や共感度、また会社への貢献欲が高く、職場への満足度も上がってきています。しかし、安定志向の人やリーダーシップを取りたがらない人も一定数おり、今後「その先」を見据えた変革や挑戦を行っていくには、少し気がかりな点もあるというのが実情です。
当社は元々、ベンチャー企業として走ってきた歴史があり、それ故、会社の成長過程において人財への育成投資が後回しになってきた時期もあると思っています。
だからこそ、私たちは「その先」を考え、変革と挑戦への取り組みに向き合っていく必要があると思っています。現状に満足していないか、今の成長に安心していないか、「その先」に向けた変革と挑戦ができているのかを、自ら見つめ直し、問い続けていくことが大切なのです。
これらを踏まえて、私たちは人事戦略の中で一人ひとりが「意志」を持って働くことを非常に重要視しており、全社的に人財育成計画や育成施策を推進しています。
また変革と挑戦という意味では、やはりマネジメント層が変わっていくことも重要だと考えています。メンバーが意志を持って挑戦できるような、意欲を引き出すマネジメントや、結果を出すためのマネジメントをマネジメント層ができているのか、という点に強い課題意識を持っています。
森川:安田社長の役職員さんに対する熱い思いや、育成に対するお考えが非常に強いと感じました。
このお考えに至った背景について、改めてお伺いできますか。
安田氏:ベンチャー企業としてスタートし、お客さまの期待や信頼に応えるため、全速力で走ってきましたが、近年、第一生命グループに迎え入れていただいたことで経営の基盤も安定し、次の成長に向けて挑戦と変革の新しい一歩を踏み出そうとしています。この会社のフェーズが変わりつつある中で、私たちが自分自身を見つめ直したときに、やはり「人」の力、「人財力」をもっと高めていかなくてはいけないと、課題として大きく認識しました。
まさにこの点が、前述のマネジメント層の変革に対する課題につながります。マネジメント層には、多様性のあるチームをまとめること、そしてメンバーが「その先」の変革と挑戦に向けて自らの意志で働けるよう促し、チームでモチベーション高く取り組むことで結果を出していく、ということが求められています。この求められる役割に対して、今まで以上にマネジメント層は意識して取り組んでいく必要があると考えています。
このような課題意識に対して、現在、コーポレートコーチ社のコーチングを活用しており、マネジメント層が自分自身の課題に向き合い、対策を考えて取り組むためのご支援をいただいています。
多様性を生かす経営マネジメントと人財育成の要諦
森川:多様性を生かす経営やマネジメントにおいて、安田社長が意識されていることはありますか。
安田氏:多様性は、私たちアイペット社というチームの前提にあると考えています。私たちはもともと中途採用者が多いのですが、新卒で入ってきてくれた人も、グループからお越しくださった人もおり、バックグラウンドや働き方、また家庭の状況も様々です。そのため、多様な人たちの色々な意見をまとめ、予測のできない世の中に向かって知恵を出し合っていくことがとても重要だと思っています。
こういった観点から、当社のマネジメント層が多様性を前提とした上で結果を出していくことを意識していきたいですし、これから目指していきたいと思っています。
森川:これまで様々な教育施策を実施されているアイペット社ですが、安田社長が最も重要視されているポイントはどこにありますか。
安田氏:個人の成長実感と会社の事業成長につながる育成を重要視しており、意識していきたいと考えています。
個人が成長し、自分自身が変化していくことで仕事の高い成果につながる。それを通じて、飼い主さまやペットに貢献し、会社の成長や、周囲の挑戦意欲・成長意欲の促進につながるような良い循環ができればと思っています。そのために育成体系や取り組みが必要だと考えており、研修も多く実施しています。
ただ研修といった、会社全体の底上げにつながるスキル教育系の取り組みも大事ですが、マネジメント力の向上という点では、マネジメント自身も変わっていく必要があり、一人一人の課題に向き合い対応していく必要があります。そういった意味では、集合的な研修だけではなく、個別のアプローチも重要になってくると思っています。コーチングは個別アプローチの手法の一つであり、今後も活用しながら幹部層や、幹部候補層の育成にも注力していきたいです。
コーチングの重要性と将来への期待
森川:研修だけでなく、個別アプローチとして、コーチをつけるという選択(コーチング)の重要性をお話しいただきましたが、安田社長がそう思われた背景を教えてください。
安田氏:研修の場では、みんなが同じようなテーマに向かって学習し、学びを深めていきますが、マネジメント層の課題は一人ひとり異なり、それによってアプローチすべき方向性も変わってくるのではないかと思っています。また異なる課題に対して、個別に相談できるということも大事。そういった意味では、集合研修よりも一人ひとりの課題に対して個別にアプローチできる機会を設けることのほうが非常に重要だと感じています。
また、私たちは個別のアプローチをプロのコーチにお願いしましたが、プロのコーチは非常に高いスキルと豊富な経験をお持ちであり、客観的なアドバイスをいただけるため効果が高いと考えます。社員の人同士では、個人のマネジメントスタイルの課題についてなど、どうしても話しづらさを感じてしまうテーマもあるでしょう。だからこそ、社外のプロの方の手を借りるというのが、非常に有効なのではと思っています。
森川:これまでコーチングをメインで御支援させていただいていますが、安田社長が今後弊社に期待することは何ですか。
安田氏:今までコーチングという形でいろいろご支援をいただいたことに、本当に感謝しています。私たちだけではできなかったことも多かったでしょう。
今、会社のフェーズ変化に伴い、私たちのマネジメント層も変わろうとしている中で、マネジメントの高度化に向けた取り組みが必要になってきており、今後、様々な課題も出てくると思っています。そしてその課題に対してコーチングをもっと活用できるのではないかとも考えています。
また、私たちがこれから育成計画をさらに進めていく中で、コーチング以外のほか人財育成施策についてもご相談させていただきたいと思っています。
顧客満足度No.1への挑戦と役職員の皆さんへの期待
森川:改めて、今後アイペット社としてさらに挑戦していきたいことや、役職員の皆さんへの期待を教えてください。
安田氏:ペット保険の業界は競争が激しく、飼い主さまからご覧になった選択肢は多く存在します。そのような中で、「アイペットがいい」、「アイペットで良かった」、と思っていただけるように、商品やサービスを磨き、お客さま満足度を高めていくことは極めて重要です。数あるペット保険の商品の中でも、現在はもちろん、将来にわたって自信を持ってお勧めし、選んでいただけるよう、お客さまに向き合っていきたい。だからこそ私たちは「その先の、ペットの保険会社へ」を目指しており、それを超えて「ペットの保険が当たり前の世の中にする」、こと、そして「ペットと人とが共に健やかに暮らせる社会をつくる」ことを目指していきたいと思っています。
それを行うにあたって、まずはお客さま満足度を高め、お客さま満足度No.1を目指していきたい。そのために今、挑戦と変革を行っていますが、挑戦と変革において企画・実践し、支えていく役職員の力が不可欠であり、一人一人が意志を持って働いていくことが非常に大事だと思っています。
役職員の皆さんには、これまで力強い成長をけん引し、支えてくれたことに心から感謝しています。会社のフェーズも、業界の環境も変わっていく中で、これからの成長をつくり、「うちの子に一生の愛を」を体現していくのは、役職員の皆さんです。一人ひとりの仕事は小さいものに見えるかもしれません。しかし、それぞれが意志を持って働いていかないと、お客さまの満足度や、「ペットのため」には辿り着かないと思いますし、どの仕事も重要です。それぞれの仕事にはお客さまとペットの役に立つために必ず意味があるため、一人ひとりがそれを自覚し、理念体系の実現に向けて、意志を持って働いていってほしい。そのための成長と働き甲斐を会社として支えていきたいです。
また、従業員満足度の向上においては、従業員の処遇改善に取り組んでいくことはもちろん必要ですが、成長と貢献の実感を持って働きがいを高めていくことも重要だと考えています。そのため、成長や働きがいを支えることを会社として取り組んでいきたいと思っています。
森川:最後に安田社長からメッセージをお願いできますか。
安田氏:アイペット損保ではこれまでも人財育成について様々な取り組みを行ってきましたが、まだまだ道半ばです。人財の育成は各社さま共通の悩みでもあると思っていますし、これから人手不足や採用難といった環境下で、生産性の向上や人財の質を上げていくニーズはこれまで以上に高まっていくのではないかと思っています。そういった状況も踏まえながら、私たちでは引き続き人財力を高め、マネジメントの変革に、不断の努力を重ねてまいりたいと思います。
これからもアイペット損害保険をぜひよろしくお願いいたします。