【HRエグゼクティブサロン 第12回】
100年企業パナソニックのカルチャー&マインド改革とサクセッションプラン
~第9回「日本HRチャレンジ大賞」受賞企業のこれまでとこれから~
社員のキャリア自律を促進する「新人材マネジメント」を導入
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HRエグゼクティブサロン
コネクティッドソリューションズ(CNS)社(※)は、パナソニックグループのBtoBソリューション事業の中核を担う社内カンパニー。数々の再編を経て、2017年4月に同社が発足して以来、健全なカルチャーの醸成に向けて「カルチャー&マインド改革」の7項目に及ぶ総合的な施策を実施してきました。
改革実施後2年間で、従業員意識調査の「顧客重視の姿勢」「経営陣への信頼度」「戦略の方向性」「革新性への腹落ち感」「オープンな情報開示」の5項目すべてにおいて従業員の評価が高まるとともに、営業利益率が大幅に改善するなど、同社の取り組みが高く評価され、2020年には「日本HRチャレンジ大賞」を受賞。第12回HRエグゼクティブサロンでは、同社の人事制度・カルチャー変革を牽引する新家 伸浩 氏をお招きし、「100年企業」のカルチャー&マインド改革などについて講演を行いました。
(※)パナソニック株式会社の持株会社制移行に伴い、CNS社は2022年4月より「パナソニック コネクト株式会社」として新発足。
執筆者

ビジネスコーチ株式会社 セミナー事務局
登壇者のご紹介
<登壇者>パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社
執行役員 常務 CHRO 新家 伸浩 氏
※2022年4月1日にパナソニック コネクト株式会社 執行役員 常務 CHRO
1992年、松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)に入社。2014年より同社社内カンパニーのAVCネットワークス社で人事部門に携わる。2017年にAVCネットワークス社を母体とした組織再編が行われ、新たな社内カンパニー「コネクティッドソリューションズ社」が誕生。同社人事センター人事戦略室長を務め、2021年10月より現職。
<モデレーター>HRエグゼクティブコンソーシアム
代表楠田 祐 氏
NECなどエレクトロニクス関連企業3社を経験した後、ベンチャー企業を10年間社長として経営。2010年より中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクー ル)客員教授を7年経験した後、2017年4月より現職。2009年より年間数百社の人事部門を毎年訪問。専門は、人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問なども担う。2016年より人事向けラジオ番組『楠田祐の人事放送局』のパーソナリティを毎週担当。シンガーソングライターとしても活躍。著書に『破壊と創造の人事』(Discover 21)、『内定力 2017 ~就活生が知っておきたい企業の「採用基準」』(マイナビ)などがある。
持株会社制への移行を機に、BtoB事業の更なる飛躍を期す
パナソニック株式会社(旧松下電器産業株式会社)は、松下幸之助氏が1918年に創業し、2018年に100周年を迎えました。当初、電灯用のソケットを開発・販売するベンチャーのような形でスタートした会社は、「事業を通じ、人々の暮らしの向上と社会の発展に貢献する」という理念の下に成長を続け、連結売上高約7兆円、従業員24万人超の大企業となりました。
その間、同社の事業領域は大きく広がり、多岐にわたる商品やソリューションをさまざまなお客様に提供するようになっています。そこで、各分野のお客様や事業環境に合わせた最適な事業運営、制度設計、迅速な意思決定を行うために、パナソニックは2022年4月、持株会社制に移行することになりました。これにより、パナソニックホールディングス株式会社の下、中国・北東アジア事業、ホームアプライアンス事業、空調・空質事業、食品流通事業、電気設備事業がパナソニック株式会社に集約されるほか、6つの事業会社及びプロフェッショナルサービス部門会社が発足します。
持株会社制への移行を機に、BtoB事業の更なる飛躍を期す
パナソニック株式会社(旧松下電器産業株式会社)は、松下幸之助氏が1918年に創業し、2018年に100周年を迎えました。当初、電灯用のソケットを開発・販売するベンチャーのような形でスタートした会社は、「事業を通じ、人々の暮らしの向上と社会の発展に貢献する」という理念の下に成長を続け、連結売上高約7兆円、従業員24万人超の大企業となりました。
その間、同社の事業領域は大きく広がり、多岐にわたる商品やソリューションをさまざまなお客様に提供するようになっています。そこで、各分野のお客様や事業環境に合わせた最適な事業運営、制度設計、迅速な意思決定を行うために、パナソニックは2022年4月、持株会社制に移行することになりました。これにより、パナソニックホールディングス株式会社の下、中国・北東アジア事業、ホームアプライアンス事業、空調・空質事業、食品流通事業、電気設備事業がパナソニック株式会社に集約されるほか、6つの事業会社及びプロフェッショナルサービス部門会社が発足します。社内カンパニーのコネクティッドソリューションズ社も、「パナソニック コネクト株式会社」と名を改め、独立企業として運営されることになりました。同社の売上規模は約1兆円。コロナ禍の影響を受けているとはいえ、機内の座席ディスプレイで動画やゲームを楽しむインフライトエンターテインメントシステムでは、グローバルで高いシェアを占めているなど、その事業ポテンシャルは大きなものがあります。さらに2021年、世界最大のサプライチェーン向けパッケージソフトウェア企業、米Blue Yonder(ブルーヨンダー)社を買収し、従業員3万人体制となったパナソニック コネクト。「事業会社化を機に、BtoB事業をさらに大きく飛躍させていきたい」と新家氏の言葉にも力がこもります。
ソフトウェアを強化し、サプライチェーン・ソリューション事業を推進
同社では、お客様の現場として「サプライチェーン」「公共サービス」「生活インフラ」「エンターテインメント」という4つの領域を設定しています。そして、それに対し「テクノロジー」「エッジデバイス」「ソフトウェア」「コンサルティング」「サービス」を提供価値として、お客様の課題を解決し、サステナビリティとウェルビーイングに貢献することが、同社の事業方針です。新型コロナウイルスの感染拡大や人手不足などにより、物を届けることにおいて社会的な課題が生じている中で、サプライチェーンの現場では製造から物流、販売までのプロセスを最適化・効率化するサプライチェーンマネジメントを提供します。製造業のお客様に対しては実装機や溶接機の提供を通じて、生産性の向上を実現しています。公共サービスの現場では、ETCシステムや自治体向けの防災行政無線、空港における顔認証ゲートを提供しているほか、警察関連では交通管制システムや堅牢パソコン「タフブック」が採用されています。
生活インフラの現場では、航空会社にインフライトエンターテインメントシステムだけではなく、通信・テクニカルサービス・デジタルソリューションを提供しています。鉄道やエネルギー関連会社にはさまざまなソリューションをシステムや製品として提供し、多くの法人や大学にはモバイルパソコンを納入しています。エンターテインメントの現場では、プロジェクションマッピングやスタジアムの放送機器が、東京オリンピックをはじめとする大規模イベントで活用され、数々の実績を上げています。今後はBlue Yonder社を核に、エッジデバイスで収集したデータを活用してサプライチェーンを最適化するソリューション事業を展開し、リカーリング型ビジネスへの転換を進めていく方針です。
新家氏は「パナソニックグループ自体も我々の顧客であり、サプライチェーン全体を可視化するBlue Yonderのツールを駆使して、製造や物流現場の改善に貢献したい」と語りました。
4つの現場をターゲットに、「現場から社会を動かし未来へつなぐ」
パナソニック コネクト株式会社は、発足に際し、新たにパーパスとバリューを策定しました。新家氏は「BtoCを祖業とするパナソニックから独立するにあたって、よりBtoBを意識したものにするための見直しが必要だった」と振り返ります。グローバルにさまざまな階層のチームで議論を重ねた結果を踏まえ、同社はパーパスを「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」と定め、先述の4つの現場それぞれの課題を解決し、よりよい社会、持続可能な未来の実現に貢献していくことを指針としたのです。
コアバリューについては、創業者松下幸之助氏の経営理念をベースに、グローバル化にも対応する形で整理。「Connect(つなぐ つながる)」「Empathy(共感 共創)」「Results(結果にこだわる)」「Relentless(たゆまぬ変革)」「Teamwork(衆知を集める)」という5つのワードに集約しました。
カルチャー&マインド改革を核としてビジネストランスフォーメーションを推進
同社は、樋口泰行氏が社長に就任した2017年から、3階層の取り組みでビジネストランスフォーメーションを進めてきました。1階の「カルチャー&マインドの取り組み」では、大阪にあった本社を顧客とビジネスパートナーが集中する東京に移転。フリーアドレスの導入やICTシステムの刷新により、職場環境を整備するとともに、1on1ミーティングの導入・定着に取り組みました。
2階の「ソリューションシフト、レイヤーアップへのチャレンジ」では、ハードウェア中心のビジネスからソリューションやソフトウェアビジネスへの転換を図ると同時に、ソフトウェア人材の採用・育成に注力。3階の「事業立地改革」では、事業と拠点の再編などに加え、Blue Yonderの子会社化も実現しました。
この3階層の取り組みのうち、同社が最も重視しているのがカルチャー&マインド改革で、「この改革を通じ、『誰もがオープンに意見を交わし、正しいことを実行できる企業風土』を構築するため、社員のコミュニケーションの活性化を促進してきました」と新家氏。併せて、世の中の変化に対する感度を高め、最短距離でお客様にリーチするとともに、社員の生きがいや働きがいを大事にするカンパニーへの道を追求してきたのです。
1on1ミーティングへの注力により、社員の満足度が大きく向上
同社が、1on1に力を入れ始めたのは2018年ごろから。それまでも社内コミュニケーションを重んじ、折々に全社員集会(ALL HANDS MEETING)を開くなど、樋口社長をはじめとする経営層と社員の対話の機会を増やしてきましたが、現場の上司・部下のコミュニケーション、特に上司面談ではなく部下主体の対話の必要性を強く感じるようになりました。そこで、1on1を導入してビジネスコーチと二人三脚で運用を進め、個人の自律的な行動・成長を促進することにより、企業価値の持続的向上を図るという取り組みがスタートしたのです。
社内での議論・調整を経て、1on1の実施にあたっては、1回15分、頻度は2週間に1回というガイドラインが設けられました。また、チャットやメールではなく、Teams等のオンラインツールを含めたフェイストゥフェイスでの対話を原則とし、帳票などは使わず、部下の話を傾聴するというルールも決めました。
1on1のテーマについては、業務の進捗報告だけでなく、戦略・上位方針、業務・組織課題、能力・キャリア開発、心身の健康状態、個人の理解など、さまざまな話を部下発で語ってもらっています。「1on1の導入時に、社外の方にヒアリングしたところ、『業務の話には触れず、今後のキャリアについての話題を中心に話し合っている』との回答でした。そういう形の1on1が定着すれば理想的だと思いますので、上司と部下がさらにオープンに語り合い、いろいろな課題を解決できるようにサポートしていけたら」と、新家氏は今後の展開に期待を寄せています。また、同社では、上司のスキルアップに向け、組織責任者2000名以上に対し1on1研修も実施しました。その後、社員約1万1000人を対象に「部下主体の対話が実施されているか」というアンケートを取ったところ、実施率は92%、「良好な雰囲気である」と回答した人が約92%、「成長へのつながりを感じる」と回答した人が約80%と、非常に良好な結果が得られています。
3本柱の人事施策で一人ひとりの成功に貢献する
新会社設立にあわせて、人事制度の見直しも行われました。新家氏は、「人事の役割は、CONNECTer一人ひとりの成功に貢献することだという結論に達しました」と述べました。CONNECTerとは、パナソニック コネクト社員のこと。同社では、「社員」「従業員」の代わりに、CONNECTerと呼んでいます。
「CONNECTerの成功」とは、会社で働く中で一人ひとりがやりがいと成長を実感し、日々幸せでいられること。そのような状態が実現できれば、生産性も上がり、企業価値の持続的向上につながるはずです。そして、企業価値が上がれば、さらにCONNECTerのやりがいやモチベーションが高まり、エンゲージメントも向上するという好循環が生まれるでしょう。
「CONNECTerの成功」実現に向けて、人事部門では「パーパス・コアバリューの浸透」「新人材マネジメントの導入」「ヒト・組織の活性化」の3本柱の施策を推進しています。パーパス・コアバリューが全社に浸透し、それを全員が共感・体現できていれば、会社と個人は「選び、選ばれる関係」になります。また、パナソニック傘下時代は、メンバーシップ型マネジメントを実施してきましたが、その利点を考慮しつつも、今後は戦略を起点とした職務ベースの人材マネジメントに移行していきます。さらに、ヒト・組織の活性化に向けて、ダイバーシティや働き方改革を推進し、多様性にあふれるイキイキした企業文化を形成することを目指しています。
戦略起点でポストを定義し、職務を明確化する新人材マネジメント
新家氏はさらに、3本柱のうち新人材マネジメントについて「過去とは比較できないスピードで事業環境が変化している現在、求められる人材やスキルのある人材を社内で確保するには、戦略起点でポストを定義し、その職務内容を明示しなければならない」と言及しました。職務内容を明確化することで、社員のキャリア形成・能力向上を適切にサポートすることができ、社員一人ひとりが成長すれば、会社もさらに成長することができます。
社員のチャレンジ意欲を活性化するために、社内のさまざまな職務内容を可視化しています。それぞれの職務に必要なスキルやコンピテンシー(能力・行動特性)レベルを紐づけることにより、自分が次のステージに向けて何を学べばよいかがクリアになり、効果的な自己学習を促すことができます。さらに、手上げによる公募、登用の制度を拡大すれば、主体的なキャリア構築も実現できるでしょう。
新人材マネジメントにおける人材開発・人材配置のプロセスでは、
①職務が明確化された中で、自ら目指すキャリアを決定する
②希望するキャリアに向けて、強化すべきスキルを習得する
③公募制度を活用し、望むポジションにチャレンジする
という「決める」「学ぶ」「動く」の3つのステップを踏んで、一人ひとりのキャリアアップを支援します。
「決める」については、ABD(A Better Dialogue)という期初・期末のMBO面談や1on1ミーティングでの上司・部下の話し合いを通じて、目指すべきキャリアの方向付けをしていきます。「学ぶ」については、各種の研修に加えてeラーニングでUdemyやパナソニック提供のGCCK(グローバル共通コアナレッジ体系)のコンテンツを視聴できるなど、自発的な学習をサポートする環境が整っています。そして、「動く」では、希望するポストにチャレンジするための社内公募制度(随時募集)が設けられているのに加え、手上げによって昇格昇進に挑戦できる「ステップアップチャレンジ制度」もスタートしました。
戦略起点でポストを定義し、職務を明確化する新人材マネジメント
社員がせっかく知識やスキルを身につけたのに、希望するポストに挑戦する機会がなければ、それを活かすことができません。そこで、今後さらに公募制度を拡大し、キャリア自律の実現を図っていきます。同時に、部下の異動による職場の戦力低下についてもケアすべく、上司のチームビルディングにおける権限・責任を拡大。部下の育成だけでなく、タレントプールも併せて構築し、配下ポジションの後継者計画をサポートします。新人材マネジメントの導入により、社員の主体的なキャリア形成を促し、企業価値向上への歩みを加速させるパナソニック コネクト株式会社。新家氏は最後に「これまで当社では人事主導の人材配置を行ってきましたが、今後、公募制度などを拡充して、いかに社員のキャリア自律への意識を高めるかが、人事の最重要課題です」と語り、講演を締めくくりました。